鳳長太郎の誕生日が故にあまりバレンタインを楽しめない日吉くんと、バレンタインを楽しんでほしいと思う鳳くんのお話でハッピーエンドです
「日吉ってどうしていつもバレンタインはつまらなそうにしてるの?」
放課後、俺の教室へ幼馴染がやってきて、席の隣に座った。珍しいことではないが、この日はわけが違う。今日は二月十四日、バレンタインデー。
鳳は「前々から思ってたんだけどさ」というご丁寧な前置き付きで質問をしてきた。素朴な疑問だったんだろう。確かにこの男は他人のことにやたら顔を突っ込む性格だ。お節介が過ぎる。俺は呆れてため息を吐きたくなったし、鳳の目には不満を抑え込むために不機嫌そうな顔が映っているに違いない。鳳はこの表情をいつもの事だと思っているのだろう。しかし、今回は話題が悪い。俺の心のわだかまりにわざわざ触れるようなことを言ってきたからだ。
「……お前の誕生日だからな」
「なんだそれ。ひどいなあ」
俺が目を逸らしながらぶっきらぼうに言うと、鳳は面白がるように肩を震わせて笑った。長い付き合いというものは不思議だ。愛想の悪さも多少の嫌味も全てどこかにやってしまって、冗談に変えてしまう。ただ俺は決して冗談を言ったわけではなかった。
「そんな日吉に」
鳳は理由を深く知りたいわけではなかったようだ。話をくるりと変えるように、鞄から紙袋を取り出した。俺たちがよく持っているスポーツブランドのものや、部活後に食べる飯の入ったコンビニ袋でもなく。白を基調にした、真ん中にデパートのロゴが入っている高級そうな紙袋。それは妙に鳳に似合っていた。
「あげる。受け取ってよ」
さらりとした口調だった。まるで忘れた教科書を貸すように、落ちたテニスボールを渡すように、俺に差し出した。それでいて、君にぜひどうぞと言わんばかりの晴れやかな笑顔。あまりに自然な動作だったので、その流れのまま目の前の紙袋を受け取る。中には小包が一つ入っていた。紺色のシンプルな包み紙に赤いリボンが施されている。
鳳は笑顔をそのままに「開けてほしい」と言う。言葉の導きのままにリボンを解き、包装紙を注意深く破るとほのかに深みのある香りが漂った。
「日吉っていつもバレンタインの日はつまらなそうにしてるから、楽しんでほしくて。だからプレゼント」
言葉と同時に箱の蓋をぱかりと開ける。中には一口サイズのチョコレートが四つ入っていた。それが目に入った瞬間、しまったと思った。まさか中身がチョコレートだなんて思いもしなかった。これはなにかと質問して、それを断ればよかった。当の本人は笑顔のままで、おかしなことをしているのだと自覚していないようだ。
「この前日曜日に家族で百貨店に行った時に、見かけたんだ。おいしそうだろ。これなら日吉も好きかなって思って」
鳳はなぜ贈り物を買ったかを機嫌よく話す。その言葉は心地の良い甘さがあったが、それと同じくらい憎たらしかった。まっすぐなほどの優しさはいつも俺を惑わせる。そして、俺が言葉を発する前にあいつは「じゃあね」と言って足早に立ち去った。目の前には小包が一つ残った。
☆
うち静まる寒さも、淋しさが募る薄暗い空も、少し重たい厚着のコートも苦手ではあるが、決して嫌いではなかった。ただ、二月十四日という日が好きではなかった。新年が通り過ぎ、春風を待つようにじっと耐える月。そこにぽかりと浮かび上がる妙なイベント。バレンタインデー。
元々決められたイベントに乗っかってただ盛り上がるという事が性に合わないし、イベントに便乗して意中の相手に想いを伝えるということに共感ができなかった。直接渡されるバレンタインの贈り物は大抵断っている。
もし本当に伝えたいのなら、チョコレートに想いを乗せるなんて、弱くて脆いと思ってしまう。小包に込められてる想いを推し量れないし、返す事もできない。仮に自分なら違うやり方をしたい。もっと直接的で、相手の心の真ん中に伝わることを。
そんなことを思っていると、一人の男が目に入る。二月十四日の主役、鳳長太郎。鳳が贈り物を貰う量は昔から頭一つ飛び抜けていた。おそらく誕生日だからというのもあるが、きっとそれだけではない。いつもよく話している同級生、恥じらった姿の見知らぬ年下、代わる代わる相手が訪れる。それが誕生日プレゼントなのか、それともバレンタインの贈り物なのか。そんな事にはあまり興味はないが、受け取る鳳に視線がいく。
鳳はバレンタインデーの日もいつもと変わらず笑っていた。相手がどこの誰でも笑顔で出迎えて、持ち前の人懐っこさで答える。周りを温かくする。鳳は昔からそういう人間だ。見ているこちらも柔らかい笑みが零れるくらい、どこまでもまっすぐに愛情深い。
俺と鳳はいわゆる幼馴染という間柄だ。特別仲が良いという訳ではなく、どちらかと言えば気が合わなくて、大抵意見は食い違う。それでも、危なっかしいあいつを放っておけなかった。真面目なくせにどこか抜けている性格。お人好しだから面倒ごとに巻き込まれやすいし、それでいて断れない。一人でいても道に迷えば、よく転ぶ。気にしてやっていると、いつのまにか目を離せなくなっていた。ただ幼いなと思っていた明るい笑顔は、いつのころからか愛くるしく、そして切実なものに変わった。
気が付きたくなかったし、あまり認めたくはなかった。自分がいつか恋をするならば、もっと別の清楚な女性なのではないかと思ってた。
この気持ちを伝えるつもりはなかった。気づけばいつのまにか隣にいる、そんな生ぬるい陽だまりのような存在。
どうだろう、恋という得体の知れない幻想のような感情をぶつけるのは。もしもと想像してみても、曖昧で戸惑った顔しか思い浮かべられない。気弱で優しいあいつは否定も突き放しもしないだろう。けれどその先は、恋も友も、全てを失ってしまう。
報われないのなら、なるべく長く隣にいたい。堂々巡りをしても、結局この結論にたどり着く。
この穏やかな熱が軋むような痛みに変わるのは、年に一度あいつの誕生日くらいだった。その日を毎年なんとかやり過ごせば、いつか時間が押し流してくれる気がしていた。
バレンタインデーは大抵寒い。頰を通り抜ける風にやりどころのない想いを紛らわせたかった。
自宅に帰り、部屋でこっそりと鞄の奥から紙袋を取り出す。もう少し丁寧に扱えばよかったと思うくらい、上品そうなそれは原型をとどめないほどぐしゃぐしゃになっていた。小包を取り出すとふわりと華やかな香りが漂う。俺は思わず舌打ちをした。バレンタインに贈り物なんて柄ではない。好きでもない。
鳳は俺に「つまらなそうにしてるから、楽しんでほしい」と言った。それはあいつがよく言う「世界平和」のような正論だった。自分が一番楽しめばいい日に他人を気にするなんて、本当に鳳らしい。
だが、俺は少しの楽しさよりも罪悪感が募った。誰か他の人なら断っていたはずだった。その場の流れで受け取ったが、差し出された時に楽しさとかそんな単純な感情ではない、別の感情が沸き立つのを感じた。
いつもはあまり意識しないようにしている。学年が上がるにつれて、鳳との距離も少しずつ変わってきた。幼い間柄から、テニス部の同期だという対等な関係をようやく覚えてきたころだった。俺はテニス部で下克上をする。そう思った時から、同期も先輩も全員ライバルだった。それでも、真冬の空のような透き通った笑顔をたまに思い出すと、身体が熱っぽくなる。あいつの顔を思い浮かべながら、俺をあまり困らせるな、と何度も心の中で呟いた。
あいつからもらったチョコレートを一つ頬張る。味はミルク風味で口当たりは優しく、ほのかに甘い。舌で転がすと、じゅわりと溶けてしまった。味わって喉元を通り過ぎると、二月十四日の複雑な思いも熱も苛立ちもすっと消えてしまった。そうだ、食べればなくなるのだ。忘れるために食べるのなんておかしいけれど、今の俺にはそれしかできない。そう思い、残りを順々に口に入れた。ビター、アーモンド、ストロベリー。チョコレートはどれも美味かった。
☆
次の年も鳳は俺に小包を寄越した。惚れた弱みなのか、憎たらしい笑顔の前では断れなかった。貰うだけなら断る理由もない。
「姉さんがチョコを作ってたらさ、手が足りないから手伝ってって言われたんだ。強引だろ。生チョコにラム酒入れてた。でも、ラム酒抜きのもいくつか作ったんだ。俺も食べたけど余ったから、あげる」
目の前の男は俺にチョコを開けさせて、チョコレートができた経緯を早口で話した。俺は眉をひそめた。こいつの前で喜ぶわけにもいかないし、まさかそんな気にもならない。気持ちがかき乱される悔しさと、気持ちを抑え込む我慢が一気にやってきて、どうしようもなく俺をいらつかせる。
「あ、男でごめんな?」
鳳は俺の顔を見るに見かねたのか、困ったように言った。多分本当にそう思っているわけではないだろう。俺が不機嫌そうだから、その場を取り繕うような感じだった。とりあえず謝るのはこいつの悪い癖だ。
「謝るくらいなら寄越すなよ」
「あはは、でも美味しそうだろ?」
俺はわざと言葉通りの意味に返答すると、鳳はごまかすように笑った。形が不揃いなチョコレートは優しさが滲んでいた。口に入れても、昨年のように沸き立つ感情を忘れられるだろうかと不安に思った。
☆
いつの間にかまた二月十四日と言う日が訪れる。今年は大雪だった。以前の同じ日にここまでの大雪が降った記憶はないな、と過去の出来事を思い浮かべた。この日から意識をそらすことは毎年できない。部屋の気温も、随分下がっている。校庭にある木のか細い枝には、綺麗に雪が降り積もり、今にも折れそうだった。
放課後、鳳が来るだろうと踏んで、教室で待つのも悪くないと以前は思っていた。もらうだけなら、何の意味もない。自分で心の整理をつければいいだけだ。しかし、今年ももし小包を受け取ってしまったら、きっと忘れられなくなる。熱のこもった感情を思い出す。来年も貰えるかもしれないとどこかで期待してしまう。再来年はどうか。いつか、あいつの隣にいるべき相手が現れたら。以前はできることならなるべく長く隣に居たかったが、時間が経つにつれて考えも変わる。報われないのなら、いっそ断ち切るのは早いほうがいい。そうでないと、いつまでたっても前へ進めない。
毎年この日、鳳は放課後一番に俺の元へやってくる。終業のホームルームが終わると一番先に教室を出た。
俺は気づけば音楽室に足を運んでいた。今にも楽器から音が溢れそうなのに、沈黙が響く。冷たいけれど、寂しくはない静けさ。誰もいない音楽室の独特の雰囲気が好きで、たまに休み時間に訪れていた。
窓際の壁に寄りかかると、グランドピアノが見える。そういえば最近鳳の弾く音を聴いていないとふと思った。幼稚舎の頃は音楽室や鳳の家でよく聴いていたが、学年が進むに連れて、機会は減った。それが成長した距離というものなのだろう。
そんなことを思っている時、ゆっくりとドアが開く音がした。ピアノから入り口へ目線を動かすと、見慣れた長身の男が立っているのが目に飛び込んできた。
「あ、ここにいたんだ」
先ほどまで断ち切るつもりでいたのに、実際見てしまうともう駄目だった。窓から雪に反射した日差しが差し込んでくるのも相まって、スポットライトの光に包まれているような、美しいものに見える。ほんの少しだけ、見惚れてしまった。
「……鳳」
「結構探したんだよ?」
少し当てつけのつもりでいったのかもしれないが、全くそうは聞こえなかった。そういう言い方を知らないやつだ。鞄と大きい紙袋を二つ持っている。今年も多くの人から声をかけられたのだろう。鳳は俺が息をつく間にすっと近づいて、俺の隣へ立った。
「今年も馬鹿みたいに贈られるな」
「まあ、重なっているからね」
鳳は肩をすくめて困ったように笑った。それだけではないだろ、と言おうとしたがやめた。社交辞令のような会話が続いてしまうから。鳳は重そうな紙袋をふう、と息をつきながら置いた。もしかするとここへ来るまでに何回も捕まってしまったのかもしれない。多分今みたいな会話も何度かしてきたのだろう。
「……日吉は誰からも貰わないの」
鳳は俺と同じように窓際の壁に寄りかかると、少し低い声で呟いた。個人の感情に触れる質問をしているのだという自覚があるような、優しい問いかけだった。俺が学友からの贈り物は全て断っていると知っていたらしい。どこかで見かけたのかもしれない。
「好きじゃないからな。それに返せないだろ」
俺は思った通りに答えた。鳳は俺の顔を覗き込んで、少し驚いた顔をした。もしかすると言葉の端を取り違えたのかもしれない。俺はイベントが好きではない、という意味で言ったが、相手が好きではないとかそういう意味で捉えたのかもしれない。
「……ふうん」
鳳はあまり納得いかないような顔をして目線を前に移した。沈黙が流れる。そういえば、音楽室で二人でいるのも、二人でこうして話すのすら久しぶりかもしれないな。懐かしむ過去ばかりが増えてしまう。
「そうだ」
沈黙を破った鳳は、思い出したようにぽつりと言った。
「今年はさ、和風にしてみたんだ。抹茶のガトーショコラ。和風の方が日吉好きかなって。毎年姉さんの手伝いしてるから、結構上手くなってる気がするんだ。去年よりきっと美味しいよ」
当たり前のように、かばんから取り出して、俺の前に小包を差し出す。口角が綺麗に上がった曇りのない笑顔。その表情を向けられるとどうしても断れない。情けないし、悔しい。断ち切ろうとした想いは、あいつを前にするとどうしようもなく揺らぐ。俺がしぶしぶ小包を手にすると、鳳は満足そうにまた笑った。
「俺のは毎年貰ってくれるんだな」
鳳は目をそらして俯きながら、呟いた。
「はあ? お前が俺に、押し付けるからだろ」
毎年俺の前に現れて、小包を持ってくるやつが何を言う。俺は思わず声を荒げてしまった。嫌味のつもりだったが、ふいに鳳の笑い声が聞こえる。面白いからというか、嬉しさの溢れるような密やかな声。
「日吉って何だかんだ俺の頼みいつも聞いてくれる。本当に、日吉のそういう優しいところ……好きだなって」
鳳は昔を懐かしむ独り言のように言った。大切な想い出をを救いあげて慈しむような言葉。そして、鳳の中から静かに何か大切なものが零れたのを俺は見逃さなかった。顔を見上げると、ゆっくりと大粒の涙が一つ二つと溢れている。俺がじっと顔を見ていると、鳳はようやく自分が泣いているのかと気がついたのか、顔に手をあてる。慌てて手で拭っても涙は止まらない。床にはらはらと落ちていく。
お前は、もしかして。
そう口にする前に、鳳は俺の顔を見ると少し怯えた表情をして入口へ走りだした。鞄も、今日貰った贈り物の袋もそのままにして。しかし、俺は見逃してやらなかった。入り口に辿り着く前に鳳の手首を掴んだ。鳳は手首を掴む俺の顔を見て嫌がる顔をした。それでも離してやるものか。
「離せよ……!」
声は小さかったが、強く抗えている言い方だった。
「嫌だね」
俺も強い口調で返した。今を逃したら次は無いと思った。
「お前の、さっきの好きってどういう意味だよ」
俺は迷わず確信を口にした。鳳みたいに分かりにくい質問や行動はしない。曖昧な嘘もつかない。まっすぐ鳳の顔を見た。
「毎年あげてただろ……そういう……」
もう最後は言葉になっていない。精一杯声を出しているという感じだった。おそらく、ふいにこぼれ落ちた感情。弾けてしまって止まらなかったんだろう。その感情が俺と同じものなら。いつの頃からか秘めていたものなら。俺は小包の贈り物なんかで返さない。はっきりと心の真ん中に伝えたい。
「そんなんじゃ、伝わらないな」
俺はそう言った後、鳳の手首を引き寄せた。やつは体勢を崩して、俺の顔を屈み見るような角度になった。が、悔しいことに鳳の身長は俺より大きい。まだ遠い。俺は手首を掴んでいる手はそのままに、反対の手で鳳のネクタイの結び目を強引に掴んだ。鳳はこの世の終わりのような顔をしていた。
そのまま引き寄せて、額にキスした。音も出ないくらい、そっと触れるように。
「本当に伝えたいなら、このくらいしろよ」
唇を額から離すのと同時に、俺は両手を離した。それと同時に鳳が教室から出て行くのか五分五分だと思っていたが、そのまま留まった。立ち尽くしていたと言った方がいい。顔は見たことがないほど赤い。信じられないと言った表情で俺が触れた額の辺りを手で触れる。その後、俺の顔を見つめ返した。
俺は鳳の頰に触れて、止まらない涙をそっと拭う。白くて柔らかい肌。大きい瞳から流れるしっとりとした涙。この感触には覚えがあった。幼い頃何度も触れた。鳳が転んでケガをした時。テストで悪い点を取った時。上級生から嫌がらせをされた時。事あるごとに子犬のような瞳から大粒の涙をこぼした。鳳は昔から泣き虫だった。
俺は仕方ないから、泣き止むまで付き合った。俺はあまり人にかける言葉を知らない。何も言えない代わりに、涙を拭った。時には励ますように、時には諭すように。
俺たちはあの頃から成長していたと思っていた。しかし、何も変わっていない。ただ、育ってしまったやっかいな感情が壁になっていた。甘くて、終わりの見えない、やりどころのない気持ち。気づきたくなかった。悟られてはいけない。伝えては、いけない。そう思うと自然に距離だけが遠くなっていた。だから、臆病な俺は沸き立つ感情を忘れようとして、弱気な鳳は曖昧な嘘をついて毎年贈り物を寄越した。
「それとも、まだ伝わらなかったか?」
俺は出来るだけ優しく言うように努めた。鳳は俺の問いかけに首を横に振った。しかし、鳳はまだ泣いているし、ずっと俯いているので、心の底で何を思っているかは分からなかった。この沈黙が拒否でないならば。
今日のことはあまりにも突然のことだった。おそらくお互いに打ち明けるつもりはなかったはずだ。改めてこの距離を詰めるのには時間がかかる。気持ちを整えて、話し合って、周りを見渡さなければならない。
「そういえば……今日はお前の誕生日だったな。おめでとう」
今まで伝えられていなかったことがもう一つ。当たり前に毎年来るのに、この言葉も祝福も初めてだった。目の前の男は俯いた顔を上げ、驚いたように瞳を見開く。
俺は今幼馴染を失おうとしているのか。いや、その過去は変わらないだろう。新しい何かを見つけた。減りはしない。昔の思い出はそのままに、これから色々な出来事や感情が増えていく。
鳳がもし望むのなら、俺は決して離したくはない。そう思いながら、涙に濡れる頬を手のひらで包み、自分の方へ引き寄せた。今度は唇に口付けをした。