日吉が鳳の姉の結婚式に行く話。付き合ってませんが、ちょっとだけ日→鳳。
家族など捏造もりもり。鳳姉の性格は明るめです。
普段どおり部活を終えて、家に帰ると、母親が「これ鳳さんから」と手さげ袋を渡してきた。ここで言う鳳さんは、鳳の母親であろう。俺の母と鳳の母は幼稚舎からの保護者仲間らしく、たまに昼ご飯を食べているのは知っている。手さげの中を見ると、クッキーの入った透明な包みと、白い封筒があった。封筒の表紙には筆文字で『日吉若様』と大きく書かれている。幼稚舎時代の写真が出てきたのか、もしくは演奏会の招待状だろうか。
「今度長太郎くんのお姉さんが結婚するのは知ってるでしょう。結婚式をやるみたいで、若も呼んでくれるって。その招待状」
結婚するのはここ数カ月の間、鳳がうるさいくらい話題に上げている。あの家なら結婚式は当然執り行うと納得する。しかし、なぜ俺に招待状が送られるのか。
「長太郎くんのお姉さんが若も来てほしいって言ってたそうよ。呼んでいいかなってお母さんから私経由で話があって、ぜひって言っといたわ。御祝儀代と新しいスーツは用意してあげるし、行ってきなさい。うちのお兄ちゃんが結婚する時には同じだけお祝いをくれるって話になったから」
母は外堀を埋めるように説明した。おそらく、俺が断ることを見越している。俺はひとまず封筒を開けた。固く手触りのよい紙には、都内一等地のホテル名、鳳の姉と結婚相手の名前が記されていた。
「これはどういうことだ」
俺は翌日の昼休み、鳳のクラスへ行き、机に招待状を叩きつけた。
「あ、届いた? 母さん経由かな? 話長くなりそうだから、一緒にお昼ご飯食べよう」
鳳は俺の態度を気にかけることはなく、のんきに提案してきた。俺はこの話ができればなんでもいい。クラスに弁当を取りに戻り、鳳の席で食べることにした。
「いやあ、俺も事後報告だったんだよね」
鳳は落ち着いた口調で、弁当箱を開けながら言った。俺が怒っているのに、鳳が余裕のある態度をしている理由がわかった。俺を呼ぶという選択をしたことに、鳳自身は関わりがないからだ。
「俺も昨日の夜に知らされたんだ。母さん経由で日吉くんに招待状を渡したから、もし迷ってたらぜひ来てって言っといてよ、ってさ。日吉、来てくれるよね?」
疑問形で投げかけてきているが、板についた笑顔は断らせる気などさらさらない。
「正直呼ばれる心当たりがないのだが」
ため息をつきながら、本心を伝えた。おめでたいことではあるが、なぜ自分が呼ばれたのかは全くもってわからない。
「え、そうかな? 姉さん、日吉のことすごく気に入ってるよ。家に半年も来ないと次はいつ来るんだって聞かれるし。家で日吉の話をすると盛り上がるんだ」
鳳は家でなんの話をしているんだ、と問いつめたいことは増すばかりだが、そこを掘り下げても仕方がない。俺は話の続きに耳を傾けた。
「それと……」
鳳はもったいぶるように言った。
「なんだ、早く言え」
いったん話を止めた鳳に俺はいらつき、早口で急かせた。
「これは姉さんの提案なんだけど。俺、多分結婚式で泣くと思うから、その時に介抱してくれる人がいたほうがいいって言われて。恥ずかしいけど、俺もそう思ったんだよね」
「いや、意味がわからないんだが」
「だから、俺が泣いたら、日吉に付き添ってもらいなさいって」
「結婚式で泣いてるおまえの付き添い……? そんなの親か親戚に頼めよ」
「えっと、親は挨拶とか役回りがあるから無理だし、親戚はちっちゃい子もいるから、みんな俺にかまってられないよ。それに迷惑かけることになるし……」
「はあ? 俺は迷惑じゃないのかよ?」
あまりに無遠慮な理由に荒い声が出てしまう。鳳はあはは、とごまかすように笑って流すだけで、否定はしない。相変わらず憎たらしい笑顔。そもそもこの姉弟は俺をなんだと思っているんだ。鳳が式で泣いたところで俺の知ったことではない。
「まあ、それ抜きにしても、姉さんは日吉に来てほしいと思うよ。絶対いい式だからさ。俺も日吉と一緒に見られるの楽しみだな」
最早俺が来るかどうかは疑問形ですらなく、確定事項になっている。俺が鳳の姉に文句など言えないことも見越しているのだろう。家同士でここまで調整されたら、俺に選択権などまるでない。はなっから負け試合だ。俺は抵抗することを諦めた。
☆
結婚式の朝、招待状に記載されたホテルに向かった。俺でも名前は聞いたことのあるくらいの都内有名ホテル。入口に着くと、電子掲示板が目に入る。大安の休日なのもあってか、掲示された式は片手では足りない。その中でも俺が出席する式は最も上に記載されている。ホテルで一番大きな会場のようだ。予想どおり華やかに執り行うのだろう。
会場についたら、日吉も鳳家の控室においでよ。昨晩鳳からそう連絡があったが、末端の一参列者が親族の集まりに顔を出せるわけない。あまりにも馬鹿らしすぎて、無視をしている。俺は招待状に記載された、式場の待合室へ足を運んだ。待合室にはすでにたくさんの人がいて、歓談に花を咲かせる輪が多くできていた。参列者に知り合いなどいない俺は用意されていたソフトドリンクを手に取り、部屋の端の壁に寄りかかって待つことにした。
「あれ、日吉もう来てたの?」
数分ほど立っていると、馴染みのある声が聞こえてきた。
「鳳、」
「既読無視なんてひどいなあ。もう親族挨拶終わってさ、もうすぐ挙式はじまるよ」
「わかってる」
「うん。それと……」
鳳は子どもがおもちゃを見るようなきらきらした瞳をこちらに向けてきた。
「なんだ」
「日吉、かっこいい……」
鳳はそっとつぶやいた。
「は?」
「ネイビーのスーツすごく似合ってる。サイズもピッタリだし、大人っぽくってびっくりしちゃった」
「……そうかよ」
母と百貨店に行き、オーダーメイドのスーツを見つくろったから、鳳の言うとおり身丈は合っているはずだ。ただそんなこと言っても俺の機嫌取りにはならない。鳳はいつでも他人のことばかり気にするやつだ。鳳は、銀色の髪を上げ、黒のスーツにシルバーのストライプネクタイ、アイスブルーのベストをいかにも正装といったように着飾っていた。爽やかで彩りがあり、身長が華やかさを引き立てる。こう思うのは悔しいが、絵になっている。馴染の者同士が服装を褒めあっても気味が悪いので、俺は思ったことを口にはしなかった。
そんな話をしているうちに、チャペルへ向かうように案内があった。
「俺は一番後ろでいいから先にいけ」
俺はソフトドリンクのグラスを持ちながら言った。
「え、なに言ってるの。俺の隣で見ようよ」
「そんなのじゃまで仕方ないだろ」
「もう、いいから行くよ」
鳳は俺からグラスを取り上げるとテーブルに置き、片手で俺の手首をつかんで歩き出した。力がぐっとこもっている。身長差があり、力任せにされると鳳には勝てない。こんな格好で式場まで連れて行かれたら恥ずかしくてたまらない。
「わかったから、離せ……!」
「ほんとに? 俺、日吉と見られるの楽しみにしてたんだから」
目立たないように行動するつもりだったが、鳳の姉の提案どおり、こいつの付き人をしなくてはいけないらしい。仕方ない。今日は主役様の言いなりだ。
新婦側の一番前には、祖母と鳳と並んで俺が座ることとなった。見渡しのいい席。念のため持ってきた一眼レフが役に立ちそうだ。報道委員会に入った際支給され、そのまま私物になっているもの。俺はひもを首にかけ、いつでも撮影できるようにしておく。鳳は緊張した面持ちで式のはじまりを待っていた。
会場に厳かなメロディが響く。バイオリン、チェロ、フルートの生演奏がはじまり、後方の扉が開く。まずは新郎の入場。そして、純白のベールに包まれた新婦の入場。ベールを母が上げ、父と共にバージンロードを歩いている。心にしみ入る、家族からの旅立ちの光景。俺は一眼レフを構えて、新郎新婦の写真を撮る。プロのカメラマンもいるが、記録は多いほうがいい。隣にいる鳳を見ると、ほほに涙が流れている。感情移入しているんだろう。他人の事ばかり考える、愛情深い鳳らしい。鳳が泣いたら俺が付き添う、という新婦の要望を思い出し、鳳の背中をそっとさすった。すると、肩を震わせて、ハンカチを顔に当てる。もうまともに見ることもできない様子だ。鳳の泣き顔は幼稚舎の頃から飽きるほど見ているが、ここまでぐずぐずに泣く姿は面白い。俺は鳳の顔に向けて、気づかれないように一枚だけシャッターを押した。
式は滞りなく終わった。チャペル出口の階段下で集合写真を撮り、次にブーケトスが行われるという。新婦の友人であろう女性たちが中央前へ集まる。俺と鳳は集まりの後方端へ避けるように移動した。
階段の上に立つ新婦が背中を向けてブーケを上げる。白百合をリボンでまとめ上げた、清楚なブーケ。ここもシャッターチャンスだと思い、新婦がブーケを投げた瞬間にボタンを押した。レンズから目を外すと同時に、白く揺れるものが目の中に近づいてくる。なにかが空からふわりと降ってきた。反射的に手を広げる。すると、あろうことか先ほど新婦が持っていた白百合のブーケが俺の腕の上へ着地した。なぜだ、絶対にブーケが飛んでこない後ろの端に立っていたのに。恐る恐る正面を向くと、会場は静まり返っていた。参列者の注目がこちらに集まり、式場スタッフは焦りはじめる。俺が場違いなことになっているのはわかる。これからどうすればいいんだ。俺の顔から血の気が引いていく。
「次に幸せになるのは、弟の親友の日吉若くんでーす! おめでとう!」
新婦の、明るい声が階段の上から響いた。その声が聞こえると鳳がブーケを持つ俺の手首をつかんで、上へ持ち上げた。すると、参列者からわっと拍手がわき起こる。主役が笑顔なら、もうなんでもいいのだろう。俺は飾り人形のようにブーケを持って、拍手が終わるまで立ちすくんだ。
「最悪だ……」
「なんで? よかったじゃん!」
「どこがだ……場違いにもほどがあるだろ、さっきの静まり返った空気を思い出すだけで心臓が止まりそうになる」
「あはは、そりゃびっくりはしたよね」
姉弟そろって肝心な時にノーコンだな、と嫌みのひとつでも言おうと思ったが、縁起の場なのでひかえておいた。通常ならブーケを取った友人と新婦が写真を撮るらしいが、俺はその役回りはできない。いっそやり直したほうがいいのではないかと思っていると、鳳の姉が「ブーケ取った男の子、弟の親友なんです。だから、四人で写真を撮りたいです」とスタッフに言っているのが聞こえてきた。逃げる間などないうちにスタッフが近づいてきて、流れるように階段上に連れていかれた。
「ブーケを受け取った方、もう少し嬉しそうにしてくださーい!」
カメラマンがレンズを調節しながら、はつらつとした声で言った。鳳の姉と鳳が声に出して笑う。今日はただの付き添い役の予定が、とんだ災難だ。すでに心労で疲れ切った俺はカメラに目を合わせるのがやっとだった。写真を撮り終え、新郎新婦に改めて、このたびはおめでとうございます、と挨拶をする。新郎は「君が長太郎くんの親友か、ブーケ受け取ってくれてよかったよ」と話しかけてきた。聡明で物腰柔らかそうな人だった。鳳の姉からは「今日はありがとうね、長太郎泣いてたでしょ? これからも面倒見てやってね」と言われた。俺は、鳳と親友になった覚えも、今後面倒を見るつもりもまるでないが、ここは祝いの席だ。俺は、はいとうなずいた。その時、鳳のほほが少しだけゆるんだ。
新郎新婦が先に室内へ戻った後、カメラマンからよかったらお二人で一枚どうですか、と話しかけられた。鳳は俺の反応を待たず肩をつかんで、お願いします! と大きな声で答えた。もうなるようになればいい。俺はブーケを持ったまま、カメラのほうへ向くと、パシャリ、と乾いた音が響いた。
会場の中へ移動し、席次表を見る。俺は一番後ろの親族席だった。鳳の両親と、鳳と俺。周辺テーブルも含めて鳳の名字ばかりの中に、新婦後輩として、「日吉」が一名だけ混じっている。明らかに浮いている存在だ。なるべく目立たないように意識しているものの、今日はもう仕方ないらしい。
披露宴がはじまる。オープニングムービー、新郎新婦の挨拶、出会いの紹介、乾杯、ファーストバイト。結婚式にはいくつもお決まりがあってね、と母が言っていた内容どおりに進んでいく。鳳の姉が選んだ新郎は氷帝出身ではないものの、この国の最上位層であろう経歴の持ち主。性格といい、身分といい、鳳家に馴染みそうな人だった。
歓談の間、鳳の両親は各テーブルに出向き挨拶をしていた。弟のこいつは、誰かがいなければひとりになってしまう。俺を呼んだのはそういう配慮もあったのかもしれない。鳳の姉らしい、さり気ない気づかいだ。鳳はおいしい料理だねえ、と音ひとつ立てない作法をしながら話しかけてくる。こういう場には慣れているのだろう。氷帝にテーブルマナーを学ぶ場があってよかったと、俺は改めて思った。
式が進むにつれて、鳳の口数が減り、緊張しているのがわかる。この後になにか役割があるのだと予想がつく。俺は変に茶化すことはせず、そっとしておくことにした。司会がマイクを持ち、次のアナウンスをはじめた。
「これから新婦はお色直しのため、中座に向かいます。エスコートは今までずっと一緒に過ごしてきた、弟の鳳長太郎さんです!」
司会がはりのある声で鳳を紹介する。鳳はすっと立ち上がり、姉のいる高砂まで向かっていく。手のひらを姉へ差し出し、軽く持ち上げながら、歩き出す。
鳳にスポットライトが当たった瞬間、思わず手を止めて息をのんだ。姉を包む大きな手、光に照らされてつやが増す髪と肌、柔らかなほほえみ、相手に合わせて穏やかに歩む足取り。見惚れるとはこういうことを言うのだろう。そのくらい美しいものに思えた。姉を慕う心がそのまま外見にあらわれている。純真で、まっすぐで、愛らしい。ぎこちなくも嬉しそうに姉と歩く鳳から目が離せなくなる。
同時に、遠い昔に感じたことがある気持ちを思い出した。胸の真ん中が柔く痛むもの。感じるのはひさびさだったので、懐かしさすらあった。もう俺の心からとっくの昔に消えていたかと思っていたのに。幼い頃に見た夢のような淡い感情を、思い出してしまった。
俺が鳳をどうこう思っていることはないはずだ。万が一抱いていたとしても、それはよりどころのない気持ちだ。あいつはいつか誰かと結婚する。鳳の姉が家に似合う性格と経歴の相手を選んだように、釣り合いが取れる令嬢と出会い、結ばれる。鳳の結婚式には、どうせ今日のように呼ばれる。その時には、挙式でも披露宴でも、主役から遠く離れた席がいい。きっと俺は鳳をまともに見られないから。今日、鳳が挙式で目を涙でぬらし、姉を見られなかったものとは、また違う理由で。
俺はにじんできた気持ちを押さえ込みながら、カメラを手に取り、シャッターを押した。心に刻みつけるように何度もくりかえし押した。
「あー、緊張した」
鳳は大役を終え、手で顔をあおぎながら帰ってきた。
「水いるか」
俺は手をつけていない水のグラスを差し出した。
「いい? ありがとう」
「これで途中から緊張してたのか」
「やっぱり気がついてた? もう手が震えちゃって、変だったかな」
「悪くなかったんじゃないか。役割は果たせてただろ」
俺も飲みかけのソフトドリンクを飲みながら言った。鳳は水を一口飲んだ後、前のめりになって口を開いた。
「うそ。日吉、変だよ……」
「なにがだ」
「日吉がそんなこというなんて。変な歩き方してたとか言われると思った」
「……いいと思ったものはそう伝える」
「ほんとに? 俺かっこよかった?」
「かっこいいまでは言ってないだろ」
俺は目をそらして言うと、今くらいはかっこいいって言ってよ、と鳳は笑いながら言った。鳳は褒めると調子に乗るから一日一回くらいがちょうどよい。
式のラストは新婦からの手紙だった。今まで過ごしてきた家族と親族との思い出。両親への感謝。その中に鳳への言葉もあった。「長太郎は昔から超がつくほど優しい子故に心配でしたが、テニスをはじめてから心も体も強く大きくなり、今ではもう心配していません。これからも仲良くしようね。」これは不意打ちだったようで、鳳はハンカチを取り出し、目をおおった。俺は挙式の時のように、そっと背中をなでてやった。
「一緒に帰れなくてごめん。今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ。御家族によろしく言っといてくれ」
鳳家はホテルに泊まるそうで、鳳とはホテルのロビーで別れることとなった。
「うん、姉さんに伝えとく」
「そうだ、ブーケ。おまえに渡しとくか」
ブーケは触ってみると造花だとわかり、部屋に飾ることができるようだった。俺は鳳に問いかけた。
「日吉の手に届いたんだから、ちゃんと持って帰ってよ。日吉の家に行くたびにこのブーケを見られるんだ。嬉しいなあ」
そんなに気に入ってるなら、鳳が持って帰ればいいものを。そう言いかけたが、付き人として最後の要望を聞いてやることにした。
「じゃあ、また明日ね」
「ああ」
鳳は俺に手を振って、家族のいるところへ向かった。俺はその背中を眺めた。いつまで、また明日という言葉が聞けるのだろう。傍から見たら親友と呼ばれる間柄が、面倒を見る関係がいつまで続くのだろう。わからないことは考えても仕方ない。せめて、今だけは少しだけ噛みしめていたい。カメラ越しに見た姉を導く鳳の姿を思い出しながら、俺はホテルを後にした。
ある日、一眼レフのデータを整理するために写真の履歴を見ると、先日行った鳳の姉の結婚式の写真が大量に出てきた。もうデータ容量がいっぱいなので、ある程度消さなくてはいけない。消す前に形にしておくか。今時はネットで探せばアルバムにできるサービスはいくらでも出てくる。俺は、適当に会社を見つくろって、画像データを送り、注文した。
アルバムができた頃、鳳の姉が実家に遊びに来るというので、そのタイミングで鳳家に立ち寄った。
「これ、日吉くんから……?」
「そうですが」
「すごく嬉しい! わあ、写真上手!」
「日吉って報道委員だったんだよ。それにしてもすごいよね」
アルバムを姉弟で夢中に見ている。反応が似ていて、それはそれで面白い。鳳の姉はホテルのカメラマンよりうまいんじゃない? などと言いはじめた。大袈裟だ、別にアルバムは俺が作ったのではないし。そんなことを思っていると、鳳の姉がチャペルで泣いてる鳳を見て、大笑いしている。
「長太郎、こんな泣いてたのー? やっぱり日吉くん呼んでよかった」
「日吉意地悪すぎるよ、こんな写真残すなんて……」
鳳は眉を下げて、恥ずかしがった。俺は事実を写真におさめただけだ、と鳳の抗議の意志を無視した。
「そうだ、私もいい写真があるんだ。二人に渡したくて」
思い出したように、鳳の姉は写真を取り出した。ブーケを受け取った時、俺と鳳で撮らされた写真。俺の肩に手を載せて無邪気に笑う鳳と、疲れ切って無心でカメラへ目を向けている俺が映っている。
「ホテルの人も気が利くよね。長太郎すっごく楽しそう。なんか、二人がちっちゃい頃を思い出してね。ずっと仲良しで嬉しくなっちゃった」
改めて写真を見ると、鳳の姉が言うとおりどこか懐かしい気持ちになった。昔から変わらない俺たちの表情の中に、近からず遠からず、時間を共にしていた間柄が写しだされていた。心の中にまた柔く甘い気持ちが浮かんでくる。隣にいる鳳と目が合うと、照れたように笑いかけてくる。その表情を見ると、なぜか今だけは同じ感情を持っているような気がした。